謎の洞窟
12月1日、曇り空の下、愛車「へなちょこ1号」は走る。
窓のガラス越しに日が差せば暖かく、しばらくするとジリジリと頬が熱く感じるようなのに、雲に隠れた途端、寒さを感じる。
どうか降らないでと願いながら空を見上げる…なんとか持ちこたえそうだが、山の天気は分からない。
ナベ隊長、そしてミキ隊員は広島県神石郡であろうと思われる、山の中に来ていた。
今日はふらっと探険に出かけた。
特に行き先も決めてはいなかったが、自然と山の方へ足が向かった。
看板が目に止まったので「仙養ヶ原」へいってみることにした。
子供の頃何度か両親と来たが、芝生の生えた広い原っぱ、という記憶だけで、大人になってからは通過するだけだった。
特に観光向けの何がある、という訳でもなく、ゴルフ場あり、キャンプ場あり、別荘地(や温泉?)あり、といった高原である。
キャンプ場の近くには、なが?い滑り台などの遊具が少しあり、道に沿って植えてある松の木の下を、初老の夫婦が歩いていた。
特に興味も抱かず、通り過ぎようとした所で、いつも通らない脇道を見つけ、行ってみようとナベ隊長が言い出す。
確かに、メインの道を走ったことは何度もあるが、一度もその道を外れたことはなかった。
一車線分しかない未舗装路を、へなちょこ1号は進路を変えノロノロと走りだした。
「ここは…どこ?」
わからない。
行き先があるわけではなかったが。
しかし、現在地が分からないというのは不安なものだ、戻るにも戻れないのだから。
田舎の手作り看板は、時にありがたく、時に惑わす。
地元の人の間ではそう呼ばれているだろう地名で、○○まで3km、××方面2kmと書いてあっても、私達にはわからなかった。
まぁ急ぐわけでもないし、とのんびり走る。
時間的にもそう走っていないし、まだ神石郡(?)の中のどこかの山の中であろうと思われる。
仮に走っていたとしても、絶対どこか知っている道にでるはずだ。
それでもダメならひたすら川に沿って下れば海に出るさ、なんてのんきに走っている二人の目に、「毘沙門洞」という古びた看板が!
よく、ドライブ中に「○○の滝」「××川源流」という看板(しかも明らかに手作りのような)を見つけては立ち寄った。
橋もなく、飛び石も沈んでしまっているような川を渡り、冷泉を見に行くと、もう枯れてしまっているのか、水のあった痕跡と字の消えかかった看板しかなかったり。
気軽に立ち寄ったつもりの滝がえらく山奥にあり、三段あるという滝の三段目が見つからず、うろうろしているうちに日が暮れ、仕方なく引き返したり…。
そんな「へなちょこ探険」(またの名を、「B級観光地めぐり」という)が大好きだ。
今回もそんな匂いがする。
いや、間違いなくそうだろう。
錆びた看板が、否応無く二人の期待(?)を膨らませた。
しばらく走ったところで、洞窟を発見。しかし毘沙門洞ではないようだ。道沿いの切り立った岸壁に、ぽっかりと穴があるが、高いフェンスで囲まれ入ることもできない。読みにくくなった看板から、古代人の生活した跡だという事を知る。
もしかすると、この辺はそういう古代人が生活していた集落なのだろうか?毘沙門洞もその一つなのだろうか。
少し過ぎたところで、また手作りの看板を発見、『毘沙門洞この奥』とある。それは地元の中学生が課外授業か何かで調査した時のもののようで、簡単に説明してあった。
それにしてもここはどこなんだ…マイナーすぎたか?と後悔し始めたころ、それはみつかった。
もちろん駐車場はなく、川向こうにそれらしい石段が見える。
少し道が広くなっているので、そこに車をとめる。
曇っている上に山の中なので、まだ3時だというのに辺りは暗くなり始めていた。
すれ違う車もなく、人気のない山の中というのは、いっそう不気味だ。
木で作られた看板にはうっすら白い文字が読み取れた。
『このあたりは石灰岩地帯で鍾乳洞が多くみられます。この対岸には毘沙門洞といわれる洞窟があり、高さ10m幅7mの大きな穴となっています。中にはお堂があり毘沙門天が祭られています。洞窟の長さは300mともいわれています』
ふむふむ。
とりあえず行ってみることに。
看板の向こうに橋がある。川はそう深くもなさそうだが、流れはけっこうある。
鉄骨そのままの簡素な橋だが、ご丁寧に下が見える。しかも時々足元がぐにゃりとへこむ感じがする。
当分人が来ていないのか?この橋は大丈夫なんだろうか…。錆びて所々ゆがんでいるのがますます不安をあおる。
こんなところで泳ぐのだけは避けたいと、思わず手すりを持って歩いた。

写真の中央に立っているのがナベ隊長。この奥に石段がつづく…。
石段を上がりきったところの両脇に、2本の杉の木。どちらにも朽ちた縄が結ばれているが、途中で切れ地面に落ちていた。
しめ縄でもあったのか、立ち入り禁止なのか?
古い縄からはそれ以上わからない。
不気味。
ただその一言に尽きた。
中には書いてあった通りお堂があったが、中は真っ暗で見えなかった。
お堂の横を通りすぎるようにして後ろへまわると、真っ暗な穴がぽっかり開いている。
辺りは日も暮れ、穴の中までは光が届かない…
「いってみよう」
こんな時に限って、肝心な懐中電灯というものを持ち合わせていない。
真っ暗な穴。
先の見えない大きな暗闇。
しん…と静まりかえった穴からは何も聞こえない。
後ろにあるはずの川の流れる音さえ、静けさに包み隠されているようだ。
チャリ。
一歩踏み出す。


「ダメ!やっぱこわい〜!!!!」
その場で立ちすくむ者一人。
何を隠そう、ミキ隊員は怖いのダメなのだ。
ダメっていったらダメなのだ!怖いんだもん!
もし何かいたらどうするの!
この辺、「ヒバゴン」とか有名なんだよ?!「うが?!!!」って出てきたらどうするの!
第一、こんな古びたお堂、いかにも何かいそうじゃん!毘沙門天が怒ったらどうするの!!!バチが当たっちゃうんだから!
一気にまくし立てる。一人でおうちにいたら何度も後ろを振り返っちゃう位怖がりなのだ。
いいんだもん、へなちょこ?ああそうさへなちょこさ!へなちょこって言ってるじゃん!
もう逆切れの居直りである。
「大丈夫よ、だって中学生も入ってるのに?」
なだめるナベ隊長。
「だって明かりもないし怖いんだもん!」
せめて懐中電灯とか、もっと明るい時とかさ…。
意地でも動こうとしないミキ隊員に、ふぅ、とため息をつくナベ隊長、
「じゃあ今日はもう暗いし、今度ちゃんと用意して出なおそう!」
そうそう、会社でヘルメットとかこっそり持って帰ってさ…(ウソです、そんなことしません!)
とりあえず、出なおすことにする。
ほっとして帰り道の方へ振りかえる。
「あれ…!」
入るときには気づかなかった。
お堂の前の、少し広くなった所に、誰かがビバーク(?)した跡が!
焚火をしたらしく黒く焦げている。比較的新しい。
…よくこんな所で寝たなぁ…
半分あきれ、半分尊敬しながらお堂を後にする。
バチが当たるなら多分この人が優先だ。
いつかまた、頑張ってリベンジするぞ。
さすがにちょっと悔しいので、また行ってみようと思った。
そう決意した割には、先に行くナベ隊長の後を、ビクビク後ろを振り返りながらついて行く、やっぱり「へなちょこ」なミキ隊員であった。
結局、そこから少し走るといつもの道に出ることができた。
あまり遠くには行ってなかった。こんな近くにこんなモノがあったなんて。
たまには脇道に反れてみるのもいいものだと思う。
思いがけない所に行けるかも…。